wgetで Exploit Kit 改ざんサイトへアクセスする
ブラウザやFlashなどのブラウザのプラグインの脆弱性をついてドライブバイダウンロード攻撃によりWeb経由でマルウェア感染を行うためのツールキットがExploit Kitです。
攻撃者は正規のWebサイトを改ざんし、Exploit Kit へ正規サイトへアクセスしたユーザを誘導し、マルウェアをインストールさせようとします。
今回はその Exploit Kit 誘導に利用される改ざんされたサイトの調査です。
最近多いのがRIGと呼ばれるExploit Kitで、これに関するレポートがLAC社より出ています。
Exploit Kitの特徴など、基本的なところはレポートを読めばわかるかと思いますし、それ以上詳しくここで説明する気もありません。
Exploit Kitに関する分析・解説記事はネット上に沢山ありますが、このレポートは各種攻撃キャンペーンについて詳しく書いてあり、参考になります。
Exploit Kitへ誘導するための正規Webサイトの改ざんには攻撃キャンペーンごとに特徴があります。レポートで取り上げられていた攻撃キャンペーンは以下の3つ。
- Pseudo-Darkleech
- EITest
- Afraidgate
今回はこのうち、「1. Pseudo-Darkleech」と「2. EITest」で改ざんされたWebサイトにアクセスしてみます。
1. Pseudo-Darkleech
レポートによると、最近のPseudo-DarkleechキャンペーンではCerber Ransomwareに感染させることを目的としています。
古いバージョンのFlashをインストールしたInternet ExplorerでPseudo-Darkleechにより改ざんされたWebサイトにアクセスしてみると、ブラウザ上では下記のような表示になります。
この後、ユーザの一時フォルダ内でCerber Ransomwareが実行され、気が付くとファイルが暗号化され脅迫文が表示されるという状況になります。
このPseudo-Darkleechでは最初の改ざんサイトへアクセスしてきたユーザが攻撃対象であるかをUser Agentで判断しているようです。そのため、単純にwgetしただけではExploit Kitへ誘導するためのスクリプトは含まれていない、通常のコンテンツが返ってきます。しかし、wgetでもWindowsのIEのUser Agentを指定してやれば、Exploit Kitへ誘導するためのスクリプトを含んだコンテンツが返ってきます。
User Agentの指定なしで取ってきたコンテンツとUser Agentを指定して取ってきたコンテンツを比較すると、Exploit Kitへの誘導部分が分かりやすいです。
改ざんがばれないようにか、解析させないためにか、攻撃者はこういうちょっと面倒なことをしてきます。
2. EITest
こっちはもっと面倒です。実際にやってみると、全然Exploit Kitへの転送を行うスクリプトが返ってきませんでした。
レポートによると、EITestの改ざんでは、海外のIPを利用するためにオープンプロキシを利用してアクセスしなければならなかったとあります。
また、EITestではPseudo-Darkleechでも見ていたUser Agentに加え、さらにリファラで確実にWeb経由でのアクセスであることを確認しているようです。
なので、wgetを実行する際、WindowsのInternet ExplorerのUser Agentを指定し、Google経由でアクセスするときのリファラを指定して、攻撃者が想定している国のプロキシを利用してアクセスして初めてExploit Kitへ誘導されます。
本当に、面倒くさい……。
実際にやってみます。
コマンドはこんな感じになります。
$ wget "http://www.XXXXX.com/" --user-agent="Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; WOW64; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko" --referer="https://www.google.co.jp/url?sa=t&rct=j&q=&esrc=s&source=web&cd=1&cad=rja&uact=8&ved=0ahUKEwjMzPTumsLSAhUKa7wKHSc9CswQFggfMAA&url=http%3A%2F%2Fwww.XXXXX.com%2F&usg=AFQjCNHIc2UQEFWmNNNtk8hY6gkEKuExkw" -e HTTP_PROXY=XX.XX.XX.XX:8080
で、アクセスした結果はこんなん。
条件は以下の通りです。何も考えずに条件を変えていったので、少し見にくいですが。
ファイル名 | User Agent | リファラ | プロキシ |
---|---|---|---|
index.html | あり(Win7 IE11) | あり(Google) | あり(ドイツ) |
index.html.1 | あり(Win7 IE11) | あり(Google) | なし(日本) |
index.html.2 | なし | なし | なし(日本) |
index.html.3 | あり(Win7 IE11) | あり(Google) | あり(中国) |
index.html.4 | なし | あり(Google) | あり(中国) |
見ると、中国のプロキシ経由でUser Agentとリファラを指定したときのみ、取得したコンテンツのサイズが少し大きくなっていることが分かります。
diff取ると確かにExploit Kitへのリンクが含まれています。
EITestはランサムウェアだけでなく、金融系などの様々なマルウェアに感染させようとします。だから、できるだけ解析させないよう面倒な手順を踏んでいるのではないでしょうか。
また、EITestではExploit Kit以外にChromeでアクセスしたユーザに偽のポップアップ画面を表示してChromeのアップデートを促し、マルウェアに感染させる手口もあるようです。
こちらもやってみました。
条件はこんな感じです。
ファイル名 | User Agent | リファラ | プロキシ |
---|---|---|---|
index.html | あり(Win7 Chrome) | あり(Google) | なし(日本) |
index.html.1 | あり(Win7 Chrome) | なし | なし(日本) |
index.html.2 | なし | なし | なし(日本) |
index.html.3 | あり(Win7 Chrome) | あり(Google) | あり(ドイツ) |
index.html.4 | あり(Win7 Chrome) | なし | あり(ドイツ) |
index.html.5 | あり(Win7 IE11) | あり(Google) | あり(ドイツ) |
1つだけ明らかにサイズが大きいものがあります。
まず、index.htmlをChromeで開いてみます。
普通のサイトです。次に下のindex.html.3をChromeで開きます。
なんかのフォントが足りないみたいに言われています。モザイクかけちゃいましたが、後ろのページの表示も一部崩れているという芸の細かさ。
そして、Chromeのアップデートをしろと丁寧に言われました。このUpdateボタンをクリックするとマルウェアが落ちてきてそれを実行して感染、という流れになるはずです。
このUpdateのリンクを踏んでみましたが、残念ながらマルウェアを置いてあるホストがなくなった後らしく、リンク先が見つかりませんと言われて終わりました。
EITestのExploit Kitへのアクセスがとても面倒だということが分かりました。おそらくUser AgentとリファラとIP(国・地域)で識別しているようですが、実際、そのサイトがどこの何を狙っているかが分からないし、もしかするとこれ以外にも制約があるかもしれないです。色々な条件でアクセスして全くExploit Kitへ誘導されないこともあったので、もしかすると条件に合ってもランダムで誘導したりしなかったりするのかもしれないとか考えたりしました。
もちろん、こんな面倒をしているのもwgetなんか使っているからで、攻撃者は一般的なブラウジングの結果、そこにたどり着くことを想定しており、普通のブラウザからアクセスならExploit Kitへ誘導される可能性はもっと高くなります。
今回はExploit Kitの攻撃キャンペーンがどのようなWeb改ざんを行っているのかを調べてみました。アクセス時の条件によって挙動が変わるのは面白いです。あと、wgetでも色々頑張れることが分かりました。
できればクローラでマルウェアのダウンロードまで行えるようになればいいなあ。